満州政府

「お前はまた来たのか。何の用だえ」と尼は呆れ返っていた。
「革命だぞ。てめえ知っているか」と阿Qは口籠(くちごも)った。
「革命、革命とお言いだが、革命は一遍済んだよ。......お前達は何だってそんな騒ぎをするんだえ」尼は眼のふちを赤くしながら言った。
「何だと?」阿Qは訝(いぶか)った。
「お前はまだ知らないのだね。あの人達はもう革命を済ましたよ」
「誰だ?」阿Qは更に訝った。
「秀才と偽毛唐さ」
 阿Qは意外のことにぶっつかってわけもなく面喰った。尼は彼の出鼻をへし折って隙(すか)さず門を閉めた。阿Qはすぐに押し返したが固く締っていた。もう一度叩いてみたが返辞もしない。
 これもやっぱりその日の午前中の出来事だった。機を見るに敏なる趙秀才は革命党が城内に入ったと聞いて、すぐに辮子を頭の上に巻き込み、今までずっと仲悪(なかわる)で通したあの錢毛唐(せんけとう)の処へ御機嫌伺いに行った。これは「みなともに維(こ)れ新たなり」の時であるから、彼等は話が弾んで立ちどころに情意投合の同志となり、互に相約して革命に投じた。
 彼等はいろいろ想い廻して、やっと想い出したのは靜修庵の中の「皇帝万歳万、万歳!」の一つの竜牌(りゅうはい)だ。これこそすぐにも革擲(かくてき)すべきものだと思ったから、二人は時を移さず靜修庵に行(ゆ)くと、老いたる尼が邪魔をしたので、彼等は尼を満州政府と見做し、頭の上に少からざる棍棒と鉄拳を加えた。尼は彼等が帰ったあとで気を静めてよく見ると、竜牌はすでに已(すで)に砕けて地上に横たわっているのはもっともだが、観音様の前にあった一つの宣徳炉(せんとくろ)が見当らないのが不思議だ。
 阿Qはあとでこの事を聞いてすこぶる自分の朝寝坊を悔んだ。それにしても彼等が阿Qを誘わなかったのは奇ッ怪千万である。阿Qは一歩退(しりぞ)いて考えた。
「彼等が、今まで知らずにいるはずはない。阿Qは已に革命党に投じているのじゃないか」


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